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2010年9月16日 (木)

東野圭吾「秘密」

【あらすじ】
杉田平介は自動車部品メーカーに勤めるサラリーマン。やや勝ち気の賢い妻・直子と、小学5年生の娘・藻奈美と幸せに暮らしている。そんなある朝、バスの転落事故の第一報が入り、彼は妻の直子を失ったことを知る。意識の戻った藻奈美は「自分は妻の直子だ」と驚きの告白をするのだった。
突然の悲劇から一転、娘の体に宿った妻との奇妙な同居生活が始まる。

【感想】※ネタバレ注意

何度も映像化されるだけあって、すばらしい作品でした。平介は妻を失ったショックのさなか、藻奈美の体に直子の魂が宿ったことを知ります。直子が藻奈美の体に宿ったことは2人だけの秘密です。

また、バスの転落事故を起こした運転手は過剰労働の状態にありましたが、それは彼自身が望んだことでした。「飲む・打つ・買う」とは無縁の生活を送っており、命を削るようにして得た給与の使い道は分かりません。しかし間もなく彼が、別れた前妻へ多額の仕送りをしていたことが明らかになります。その理由は前妻の息子にあるのですが、じつは息子にも秘密があり……と、謎が謎を呼んでいきます。

一方、平介は脳科学の本を読み「時間と共に直子の意識は薄れ、藻奈美が戻ってくる」と悟ります。これを聞いた直子は藻奈美のため猛勉強を始めます。やがて5年後には目標の高校に合格。家では直子として家事を完璧にこなしつつ、学校では藻奈美として勉強に部活にと充実した生活を送ります。

しかし平介はそんな直子に心を乱します。若い体を手に入れ、2度目の青春を謳歌する妻に嫉妬心さえ覚え、とんでもない行動に出ます。なんとテニス部の男子との仲を怪しみ電話に盗聴器を仕掛けたのです。

妻を奪われたくない気持ちは分かりますが、やってることはサイテーです。通話の内容を録音し、夜ごと中身を確認する様子はヘンタイ以外の何者でもありません。結局この隠密行動は2週間で、勘の鋭い直子にバレてしまいます。

この事件を境に平介と直子の仲は悪化しますが、そのとき藻奈美の意識が復活します。日に日に藻奈美の時間は増え、直子が現れる時間は減っていきます。そうしてある日、直子は思い出の山下公園で完全に消えてしまいます。

……と、ここで終われば普通の感動作ですが本作は全く違います。文庫本『秘密』のラスト10ページには映画「ユージュアル・サスペクツ」「シックス・センス」並みの大きな仕掛けがドカンと用意されています。

平介は藻奈美の結婚式当日、彼女が密かに母・直子の結婚指輪を使ったことを知ります。直子の結婚指輪は、彼女が藻奈美の体に宿っていたころ、自分でぬいぐるみの背中に隠しており、藻奈美が知るはずもないことでした。つまり、ここから導ける結論はひとつ。

藻奈美の体に宿った直子は消えていなかった、ということ。
直子は徐々に自分を消し、藻奈美として生きる道を選んだということ。

もちろん、これは平介の主観で描かれており、断定的な証拠も記述もありません。藻奈美が実は直子のままだったのかどうか。最終判断は読者に委ねられています。

物語の序盤は戸惑う平介と直子を中心にコミカルに、中盤は運転手の家族や平介の葛藤などを中心に緩やかに流れていきます。しかし後半からラストはタイヘンです。事件と心の葛藤とどんでん返しの波状攻撃が待っています。序盤や中盤のコミカルで緩やかな描写は、衝撃のラストのための伏線でした。

東野さんはどんな風にこの作品を思いついたのだろう。「事故で他人の魂が別の体に宿る」というアイデアがきっかけだろうか。そして何度も何度も頭のなかでシミュレーションし、文字にして遂行を重ね、文字を削っては足し、爆弾のような破壊力を持つどんでん返しを思いついたのだろうか。お恥ずかしい話ですが東野圭吾さんの作品は初めて読みました。これが東野圭吾か!! すごい。

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